奇妙な店長の戯言部屋

百合好きオタによる妄想と百合の戯言な日々

マンゴスチンの恋人(遠野りりこ)


マンゴスチンの恋人

マンゴスチンの恋人



<あらすじ>
多感な青春期に心は揺れ傷つきながらも、人を好きにならずにいられないセクシャルマイノリティの男女のそれぞれの恋を描いた、第12回小学館文庫小説賞受賞作。
公式HP:http://www.shogakukan.co.jp/pr/mangosteen/




以下ネタバレ


                                    • -


マンゴスチンの恋人』
わたしマンゴスチンになりたい。雄がいなくても子供ができるから
高校2年生の季里子はクラスメイトの勇司から繰り返し告白されてもその気になれなかったが、ある日出会った人妻・笙子に心を動かされ、肌を重ねるようになる。




うん、まあ、これをレズビアンものと指していいんでしょうけど、オチは反感買うかもしれませんね。
一応ハッピーエンドですし、最後の『ヒガンバナの記憶』を読めば、多少納得出来るかなぁと。
しかし、ラストのあのラブラブな感じは……。


笙子さんの言う、「私は、私を好きと言ってくれる男とならセックスできる。女は触れたいと思った人を好きになるの。」は、ビアンとしては何とも言えないですよね。
この笙子さんのキャラは謎過ぎる、、、



「女同士じゃできないことがあるでしょう?だから、選ぶしかなかったのよ」は『ヒガンバナの記憶』にかかってますので、ラストまで読んだら、もう一度『マンゴスチンの恋人』を読み返してください。




『テンナンショウの告白』
あんたたちの好きやかわいいは薄っぺらいんだよ
季里子と同じクラスの実森は、学校一の美少女。恋人の女癖の悪さにウンザリしていたところに、存在感の薄いオタクの雪村から体の変化についての悩みを打ち明けられる。彼の悩みを聞きながら、実森は雪村の人柄に信頼を寄せていく。



百合ではないですけど、この話が一番好きです。
美女と野獣系というか、美少女と地味男子の組み合わせが好み。
美少女だから見た目だけで判断されて本当の自分を知ってもらえなくて、周りから陰口とか言われてて、そんなんだから性格がねじ曲がって来たところに穏やかな地味男子が現れて、地味男子の前でだけは本当の自分になれるというシチュエーション、って素敵じゃないですか!?



実森が雪村と一緒にいることが楽に感じるようになったときに、
 たとえばロイカ(実森と雪村が好きな歌手)が好きってことを躊躇なく口にできる相手がいるというだけで、あたしの窮屈で退屈な毎日が手足を伸ばせるくらい広くなった気がする。
と思うシーン。
大好きな歌手を好きと言えない窮屈さは、好きな人を好きと言えないセクマイの気持ちをマジョリティに分かりやすく例えてる気がします。
好きな人を好きと言えるのは、手足を伸ばせるくらい広くなると思います。



実森の彼氏とか浮気相手とか自分本位な人が多いのがうんざりですが、けっこうこんなもんですよね。
ほのぼのしてて、でも切実で、一番オススメな話です。




『ブラックサレナの守り人』
本当のことが言えるなら嘘なんて必要ねえだろ
実森の友人・葵は、援交相手から脅迫され、追いつめられていた。謎のクラスメイト・魚住の弱みを握っていた葵は、魚住を脅して協力を仰ごうとするが、魚住から逆に脅され、ある計画の協力者になることを要求される。



出だしで、葵が余裕なく雪村にイラつきを当ててしまい、それを見ていた実森が機嫌を悪くするというのが萌えましたw
雪村と友達ということをみんなに内緒にしてるから、実森が不機嫌になった理由が誰もわからないというw


しかし葵はヒドいな。
案外今どきの子ってこんなもんなのかなぁとか思ってしまいました。



葵のキャラが自分勝手過ぎてこの話はそんなに好きじゃないです。
でも魚住のキャラはまあまあ好きです。
ブラックサレナの守り人。
ちょっと予想と違うオチがつきました。
葵がこういうキャラじゃなければ好きになれた話です。



「俺、あんた見てるとイラつくんだよ。あんたみたいになりふり構わず欲しいものに手を伸ばせる奴が、欲しいものに簡単に手を伸ばせる奴が、心底憎い。だから、ぐちゃぐちゃに傷付けばいいと思ってる。そうじゃなきゃ、こんな不公平やりきれねえよ」


このセリフにちょっと共感してしまいました。
狭い視野で、それが世界の常識であるかのように他人に押し付ける、そういう人が嫌いです。
それぞれの考え方があるのは分かるけど、それを否定したり押し付けたりしないでもらいたい。




ヒガンバナの記憶』
同性愛を異常とするのは、左利きの人を異常とするのと同じよ
生物教師の梢は同性愛者であることをカミングアウトするべきか悩んでいた。受け持ちの女生徒・季里子がつけていたアクセサリーを見て、梢はそれがかつて自分の元を去って行った恋人が作ったものだと直感し、彼女に会いに行く。



カミングアウトしようか迷っている教師がラストにきているので、セクマイについて分かりやすく説明されてるのが親切です。
以前読んだ某作家の小説みたいな古臭いマニュアル通りの言葉じゃなくて、ちゃんとした言葉が載っています。
 人の性は「身体の性」「心の性」「性愛・性欲対象」、三つの要素がバラバラに組み合わさっており、三つの要素の両極に男女を置いたグラデーションのどの位置に自分があるかは、個人個人で違う。人のセクシャリティは揺らぎやブレがあり、はっきりした境界を持ち区分されるものではない。



笙子と再会した梢。
自分を捨て、結婚という道を選んだ恋人。
笙子が最後に言っていた、子供が欲しかったのくだりは本当のことだったと思います。
梢は「信じない。あんたは嘘吐きだから」と言ってますが、「私のかつての恋人は嘘吐きで、嘘があまり巧くない。」とも思っていますし。
それに最初の『マンゴスチンの恋人』に続くと思えば。。。




正直、セクマイの話をたくさん読んでる人にはそんな大した話じゃないかもしれませんが、セクマイを知らないマジョリティが読めば感動作なのかもしれません。
すべての人に「刺さる」4つの恋の物語、だそうですから。


ああ、でも。
梢が授業中に零す言葉や、マジョリティである実森がセクマイを受け入れてくれる言葉はよかったです。
全国書店員さんから絶賛の声らしいので、読んでみてください。
セクマイといって、同性愛だけを扱っているわけじゃないのがおもしろかったです。