奇妙な店長の戯言部屋

百合好きオタによる妄想と百合の戯言な日々

にじいろガーデン(小川糸)

にじいろガーデン

にじいろガーデン

<あらすじ>
世界にひとつだけの家族を作ろう。(帯より)
別居中の夫との関係に答えを出せずに苦しんでいた泉は、ある日、駅のホームで佇む女子高生・千代子を見掛ける。両親との関係に悩み、命を絶とうとしていた千代子の手を引いて自分の家へと連れて行く泉。戸惑いながらも、お互いをかけがえのない存在だと気づいたふたりは、泉の7歳の息子・草介を連れて、星がきれいな山里へと駆け落ちをする。そこを「マチュピチュ村」と名付け、新しい生活が始まり、3人で頑張っていく決心をした矢先、千代子の妊娠を知る。ふたりの母とふたりの子ども。偶然の出会いから生まれたタカシマ家。たくさんの喜びといくつもの悲しみに彩られた、16年間の軌跡。
特別なようでいてどこにでもいる、温かな家族の物語。



『にじいろガーデン』著者 小川糸さんインタビュー王様のブランチbookコーナー
http://tvproduct.blog.fc2.com/blog-entry-23.html

小川糸さんのHP「糸通信」
http://ogawa-ito.com/hello/



以下ネタバレ

                                                  • -

すごく温かい小説でした。
愛にあふれ、喜びも悲しみもすべて愛に包まれていました。
ブログで何度も書いたことありますが、店長は結婚願望や出産願望はありません。
家族を持つということがピンと来ないんです。
でもこの「にじいろガーデン」を読んで、初めて「家族を持ちたい」という気持ちが少しだけ理解できました。
こんなにも温かいものがあるなら、憧れる気持ちもわかります。



35歳のバツイチと19歳の女子高生の恋愛ものかと思ったんですが、どっちかと言うと家族の話です。
第一章は泉視点、第二章は千代子視点、第三章は成長した草介視点、第四章は成長した宝視点。章ごとに視点が変わり、時間も進んでいきます。



第一章の泉と千代子の出会いのシーンが特に好きです。
自殺しようとしていた千代子を救おうと、泉はご飯食べようと自分の家に連れて行くんですが、旦那と別居中で息子の草介も合宿中で家にいないため、家の中はしっちゃかめっちゃか(笑)
「泉さんは、座っててよ」と言って、その部屋を千代子が片付けてくれて、その間仕事で疲れた泉はソファでうたた寝をしてしまいます。

「千代子ちゃん、もうほんとにいいから。そんなこと、やらないで」
「いいのいいの、好きでやってんだから、気にしないで。泉さん、すっごく気持ちよさそうに寝てたし」
「私、うるさくなかった?」
「鼾のこと?時々急に止まるから心配になったよ。しかもね、一回」
「何?気になるから、言っちゃってよ」
「あのね、泉さん、ものすごーく立派な、おならをされてまして」
「もう……」
「でもね、それ聞いて、羨ましかったの。だって、本当にスカッとするくらい、いい音だったから。しかも、本人は全く気づかずにぐーぐー寝てるし。チョコなんて、家族の前だって、そういうこと、できなかったもの。なんか、さっきまでの自分が、バカらしく思えちゃって」
(一部省略)


この会話がなんだか微笑ましくて笑ってしまいました。
相手のみっともない姿を見ても幻滅せず、普通に会話してる時点で、千代子は泉のこともう好きになっちゃってるんだろうなぁって思えます。
相手のきれいなところだけじゃなくて、汚いとこも全部好きになれるのが愛だろうなぁと思ってる店長です。
もちろん、きれいでいようとする気持ちは重要ですけど。


そして泉の作った卵焼きを食べて泣いてしまうシーンも好きです。

「まずいよぅ」
「おいしくないよ、これ。でも、最高においしいの」
「さっきの卵焼きは、泉さんが、わたしのためだけに一生懸命作ってくれたものでしょう。だから、おいしかったの。すっごくまずかったけど、それも含めて、チョコにとっては、世界で一番、おいしかったの」
(一部省略)


少しずつ、でもすごい早さで心が近づいていく二人の描写がよかったです。
寂しい心が不器用に寄り添っていく姿がじんわりしました。



その後、駆け落ち、千代子の妊娠、泉の病気、ゲストハウス虹の開設、千代子の病気、ハワイでの結婚式など物語は進んでいきます。
千代子の妊娠が分かったときに、ケンカをしながらも愛を感じさせる二人がよかったです。
「もしかしてって思った時、一瞬、泉ちゃんとの赤ちゃんを授かったんだと思って、バンザイしそうになったんだよ。そのくらい、泉ちゃんと会う前の自分の人生のこと、忘れちゃってるの」
女同士で子供が出来ないと思ってても、一瞬、奇跡が起きたんじゃないかと思っちゃいそうですよね。
泉と草介と一緒にいる生活が、千代子にとって本当に幸せだったんでしょうね。
千代子の明るく前向きで家族が大好きな姿は本当に愛おしくなってきます。
慎重で不器用で、一家の大黒柱だからと奮闘する泉と、そんな泉を支える千代子は理想的な夫婦だと思います。
「カカ」と「ママ」と呼ばれ、母親が二人であることを受け入れる子供たち。



いい話ばかりじゃなくて、悲しいことも度々起こります。
愛にあふれた家族の裏には、愛してるから言い出せない言葉がありました。
優しすぎるというのも考えものですね。
読んでて何度か泣きそうになりました。
幸せで泣きそうになり、苦しくて泣きそうになり、タカシマ家にはもっとずっと幸せになっていてほしかったです。
すっかり感情移入してしまいました。



作中に出てくるタカシマ家の「虹色憲法

自分には決して嘘をつかない。
一日に一回は、声を上げてげらげら笑う。
うれしいことはみんなで喜び、悲しいことはみんなで悲しむ。
絶対に無理はしない。
辛かったら、堂々と白旗をあげる。

当たり前のことかもしれませんが、家族だからこそ出来ない場合もありますよね。
でもこういうことを心掛けてたら素敵な家庭が作れそうです。



そうそう、作中に出てくるペンギンの絵本は「タンタン タンゴはパパふたり」です。
2匹のオスペンギンがカップルとなった、動物の世界にも同性愛があるって思える作品です。

タンタンタンゴはパパふたり

タンタンタンゴはパパふたり



世界の隅っこで暮らす、泉と千代子、草介、宝の4人の家族を感じてください。
小川糸さんは初めて読む作家さんでしてが、とても温かい文章を書く、素敵な作品でした。
前に教えていただいたインタビューを読み返すと、余計にじんわりしました。
おすすめです。