奇妙な店長の戯言部屋

百合好きオタによる妄想と百合の戯言な日々

ハコブネ(村田沙耶香)


ハコブネ

ハコブネ


<あらすじ>
19歳の里帆は好きな人とのセックスが辛く、自分は男なのではないかと思うようになり、胸を抑えるタンクトップとショートヘアのウィッグを着け、自分の性別を見つけることにする。性別を探す場として選んだ自習室で、里帆は椿と知佳子と知り合う。椿は女であることに固執し、夜でも日焼け止めを欠かさず肉体を丁寧にケアする。31歳とは思えない幼さのある知佳子は、人間としての肉体感覚が持てず星としての物質感覚しかないという秘密を抱えていた……。



以下ネタバレ。

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『星が吸う水』に続いて、今回も「性」について語られます。
(前作『星が吸う水』の感想はこちら。)




セックスが辛く、もしかしたら自分は男なのではと思い、男装をするフリーターの里帆。
そんな曖昧な里帆を責める椿は、暗闇でも日焼け止めを欠かさず肉体を丁寧にケアする。
二人の感覚すら共有できない知佳子は、生身の男性と寝ても人間としての肉体感覚が持てないでいた――。
十九歳の里帆と二人のアラサー女性。
三人が乗る「ハコブネ」は、セクシャリティーという海を漂流する。(帯より)




大好きな男性とセックスが始まると、それが拷問のように感じてしまう里帆。
自分はもしかして、性自認が男性なのかも。
でも自分の体に違和感を感じない。
女性に対して、性的欲求を感じるだろうかと、バイト先の女の子らしい女の子とキスをしてみる。
だけど……。
「性別」にこだわり、「性別のないセックス」を試みようと足掻く里帆がなんとなく切ないです。
椿には散々怒られるし。
自分の性別がはっきりと分かってる人から見たら、里帆の言動は理解出来ないものでしょうね。



知佳子の言うとおり、「FtX」という考え方もありますよね。
でも、個人的に里帆は非性愛者(ノンセクシャル)じゃないのかなぁと思うんですよ。
恋愛感情はあり、他者へ性欲が向かない。
ノンセクシャルって個人差があるから、「恋愛感情はあるけど、性欲はない」ってパターン1つじゃないらしいんです。
ウィキに載ってる話だと、他者へ性欲が向かないだけで、性欲自体はあるって書いてあったし。
何度も言いますが、個人差があるので一概になんとも言えないんですが。




人間としての感覚が持てない知佳子は、店長には難しかったです。
時間の感覚もなく、世界がままごとのように感じられる知佳子。
太陽をただの温かい光にしか感じられないから、他人から「おはよう」と言われないと朝だと認識できないとか。
平日は会社があるから大丈夫だけど、月曜日にアラームをかけてないと土日はただ過ぎていくだけとか。
知佳子が小さいときに祖父の言っていた、生物は星のかけらでいつか星に帰るという言葉に囚われてる感じがして、ちょっと変な感じがしました。
物語は里帆と知佳子の視点で交互に語られていくのですが、知佳子の視点がなんとも不思議です。



ネットの書評で、セックスにこだわる必要はないんじゃないか的なことが書かれていて、一理あるとは思うんですが、
前作『星が吸う水』でも感じたんですが、セックスは他者と深く繋がるために必要なもののように描かれてます。
里帆も知佳子も他者と感覚が異なるから、余計に他者と深く繋がりたいと思うんじゃないでしょうか。





ここまで書いて百合色が少ないんじゃないかと思いますが、
まあ確かに百合色は少ないです!(きっぱり)



でも、里帆がバイト先の女の子といい雰囲気になったり、椿の首のしわに欲情したりするので、まあ百合かなと。
百合抜きにしても、「セクシャリティーという海を漂流する」くらいに思って読んでください。
おもしろかったです。
しかし、せっかく三人いるだから、椿視点もほしかったですね。
三人の中ではまともそうに見える椿ですが、自分磨きに精を出す姿はなにかを秘めているようにも見えましたし。